在日韓国商工会議所 兵庫のメンバーインタビューPart3。
今回のメンバーは一般社団法人G.I.E.C. 代表理事で当会議所 理事の洪孝子さんです。
兵庫韓商に入られたきっかけは
2002年10月、それまで7年にわたり一人で主宰していた小さな英語教室から脱皮し、認可外保育園を開業するにあたり、兵庫県の「コミュニティ・ビジネス離陸応援事業」の助成金制度について高龍弘さん(現・兵庫韓商副会長)に教えていただいたことをきっかけに韓商に入会しました。当時の助成金認定の審査員であられた甲南大学の西村順二先生(兵庫韓商戦略研究特別委員)にも、保育園事業の開業と経営に関して色々と貴重なアドバイスをいただきました。経営についての知識や経験がなかったので、ちょうど韓商経営塾でマーケティングなどを勉強しようと思い参加させていただきました。
兵庫韓商の役員(理事)に就いた経緯は、自身のプライベートや仕事の両面で、ずっとインターナショナルな環境に囲まれているため、アジアンパーク創生に興味があったので、シンポジウムに参加させていただいたことがきっかけで、「女性部会」への関わりを中心にとお話をいただきました。
■創業に至る経緯
2002年に「G.I.E.C.」(草の根国際交流サークル)を立ち上げ、英語で保育する認可外保育園の運営をはじめたことで、英語の先生をしながら同時に経営者としても歩みはじめました。「英語プリスクール」とは主に就学前の子どもたちの英語での保育園・教育施設のことです。「G.I.E.C.」は、地域の子どもたちの国際交流活動の一環として立ち上げたコミュニティ・ビジネスです。
保育事業を始める前は、小さな英語教室で、週に一回、子どもに英語を教えていました。でもわずか週一回60分では、子どもは英語を喋れるようにはなりません。保護者の方からも、どうすればしゃべれるようになるか、常日頃から相談を受けたりしていました。
英語で保育するプリスクールは、関東ではすでに盛んでしたので、東京に赴いて市場調査に行き、日本人の小さな子どもたちが英語でしゃべっている姿を見て、「これだ!」と思いました。
本格的に子どもが英語を話せるようになる環境を、保育を通して作ることができると知り、当時2歳だった自分の息子にも英語の環境を作ってあげたいという思いになりました。私自身がインターナショナル・スクールに通って、異文化環境の中で育ったので、自分の子どもにも同じような教育環境を整えてあげたいという想いが強かったです。
神戸市垂水区にある家族所有のビルの一室で、舞子インターナショナル・プリスクールという英語の認可外保育園を始めました。開園に際しては大手新聞5社に大々的に取り上げていただき、神戸ではまだ珍しかったので、全国から反響も大きく、申し込みが殺到しました。それだけ英語保育のニーズは大きく、当時は垂水区ではほぼ独占状態でした。
幸先も良く上々のスタートではありましたが、その後競合相手が多数出てきたうえ、認可外なので行政からの補助金や助成金が一切なかったため、ライバルの出現とともに財政問題が重くなる一方で、どんどん経営が苦しくなっていきました。認可外保育園の運営に限界を感じていたちょうどその頃、茨木市(大阪府)にあるコリア国際学園(KIS)という学校が設立され、初めは理事に呼ばれ、少々の韓国語を独学で習得していたこともあり、トリリンガルのアイコンとして2代目校長も務めさせて頂きました。KISでの経験はプリスクールとはまた違った角度から教育施設の運営に携わるものとなりました。
■事業の遍歴
1年ほどKISの理事・校長を経験させていただいたのですが、自分にはこれ以上、中高教育で発揮できる能力はないと悟り、もう一度、地元に戻ってインターナショナル保育園を再建することを決意しました。そのきっかけとなったのが、神戸市垂水区塩屋にジェームス山という、西の異人館と呼ばれる外国人居留地域で、30年間「セントジョージ幼稚園」を運営されてきた日本人の先生が、リーマンショックでP&Gを始めとした海外企業が神戸から撤退するということで、園児が減少したため、その幼稚園を引き継ぐ人を探していたそうで、ちょうど私にその話が舞い込んできたことでした。自然に囲まれた閑静な外国人専用住宅地の中にある外国人子弟のための幼稚園を引き継ぐことになり、舞子にあった認可外保育園から移転し、2010年9月から「塩屋キッズブライト・インターナショナル・プリスクール」と名称変更して開園する運びとなりました。
定員は25人と小さな保育園ですが、30人近く子どもが来るようになり、そのうち7~8割はいろんな国の外国人の子どもたちでした。他の競合スクールにはない、素晴らしい環境と、外国人の子どもたちが多数居住する地域の中にあり、正にインターナショナル・プリスクールとしての条件が揃う中で、また暫くはブルーオーシャンが続きました。
しかし、やはり競合相手は様々な強みを持っており、SWOT分析(Strength・強み、Weakness・弱み、Opportunity・機会、Threat・脅威の4つの要素で要因分析すること)のWeakness(弱み)で、経営力の乏しさもあり補助金が一切出ない保育運営は大変でした。しかし、また時代的にチャンスが到来し、SWOT分析のOpportunity(機会)で待機児童問題が深刻化してきたため、保育園の数が足りなくなって、補助金が出る認可保育園の運営に、社会福祉法人以外の法人の参入が認められたことで、新たに小規模認可保育園の開業にこぎつけました。これまで個人経営で保育園運営をしてきたのですが2014年に一般社団法人G.I.E.C.として法人化しました。G.I.E.C.という英語の略称は同じですが、その中身をこれまでのGrassroots International Exchange Circle からGlocal & International Education & Childcare」に名称変更しました。
こうして2015年4月から垂水駅近くで、2園目の小規模認可保育園「キッズブライト・ナーサリー」を始めたところ、すぐに定員でいっぱいになり、補助金運営のおかげで財政困難も一気に解消され、数年間は充実した保育園運営を行うことができました。
それからもまだまだ保育園不足が続き、待機児童解消のために企業が自社の従業員の子どもを預かる保育園を創設する「企業主導型保育事業」の制度が始まったことをきっかけに、2018年に神戸市垂水区塩屋町のジェームス山付近に3園目の企業主導型保育園、「ジェームス山・キッズブライト・プリスクール」を開園するにいたりました。ここでは200坪の土地を借りて、新園舎を建て、45名定員の中規模保育園として順調なスタートを切りました。
各保育園の特色
小規模認可保育園キッズブライト・ナーサリーは、0歳から2歳児の保育園で、駅近の閑静な住宅街の中にあるお城のような豪華なマンションの1階にあります。他の小規模保育園と保育活動内容は似ていますが、物件の条件が良く、垂水駅周辺では数少ない公園が近くにあることと、経験豊かな保育士と英語やヨガを取り入れることに特色があります。中でも週1回、塩屋の自然に囲まれた姉妹園に園外保育に行き、外国人の子ども達と交流できる機会があることは、他の小規模保育園にはない最大の強みです。
塩屋キッズブライト・インターナショナル・プリスクールでは、定員の8割がいろいろな国の外国人の子どもたちということもあり、英語と異文化が豊かな環境であることと、広大な芝生の庭園を有しており、自然に囲まれた環境が最大の魅力です。今年の1月、2010年の移転依頼、14年ぶりに保育料の値上げをしたことと、コロナが落ち着き海外から出向の家族が増えたため、外国人園児数がある程度確保できるようになり、また認可外保育園の施設への補助金は依然ないものの、利用者としての保護者に補助金が出るようになり、経営は徐々に改善してきました。
近年は小学校での英語活動もさかんになり、保育事業と同時に運営してきた英語学童保育も安定的に伸びてきています。英語学童保育の子どもたちのスクールバンでの送迎は無料です。保育園の卒園児たちが主に通っていますが、近隣の小学生が垂水区、須磨区、西区から通っています。
■事業が発進する魅力
塩屋キッズブライト・インターナショナル・プリスクールのように、緑豊かな環境で広い園庭があり、加えていろいろな外国人の子どもたちがたくさん集まるという環境は、私が知る限り神戸では東の六甲アイランド以外に他にありません。この様な恵まれた英語と異文化の保育環境について、とも良い反響があります。これが最大の強みだと考えています。
勿論、経験豊かな保育士やバイリンガルスタッフが愛情たっぷりに子どもたちの保育と教育に携わっていることで、保護者からの信頼が厚く、保育園の理念として掲げている「違うことが当たり前」の精神にのっとって「柔軟な心と身体の育成」や「キッズブライトが育てたいスピリット」としてかかげている保育方針も保護者から共感を得ることができていると思います。単に英語ができる子どもを育てるのではなく、英語はあくまでも道具としてとらえ、最も大事なのは、幼児期に培われるバランスの取れた5つのSPICE(Social Physical Intellectual Cognitive Emotional Development)という社会的、身体的、知的、認知的、感情的な発達と成長であることに重きを置いています。こここそがキッズブライトが他の英語保育園と一線を引いている境界線であり、Bright =聡明なKids=子どもの育成を掲げている理念の根幹です。私たちは英語が話せる子どもを育成することを目的としているのではなく、英語をコミュニケションツールとして駆使できるGlocal Kids, 将来において地球的視野で地域的課題を解決できる人材の育成を目指しています。ただ、大人になるための子ども時代ではなく、子どもの今が充実した子どもの日常生活になるよう、日々様々な体験や子ども同士の関わりの中で、「違うことが当たり前」という異文化の中で、思いやりと自尊心にあふれた人格形成の土台を幼児期に培いながら、柔軟な心と感性豊かな子ども時代を過ごしてほしいとも願っています。
■苦労したことや、日ごろ大切にしていること
やはり経営する上で資金繰りに関しては、他の経営者と同じで苦労しています。
外国人スタッフを雇用する上での苦労話だと、急にいなくなったりとか、夜逃げされたり、騙されたりとか・・・(笑)。
やはり重要なキーポイントは人材だと思います。当初は頼れるスタッフがおらず、私自身もマネジメントがわかっていませんでした。よく経営者が大切にすることとしてヒト、モノ、カネと言いますが、カネとモノは喋りませんが、ヒトは話しますし、そこで間違えれば大きく失敗します。今でも失敗し続けています。
大切にしていることは、働く人が楽しく働ける、やりがいを持って働けるということで、一番大事かなと思っています。うちのスタッフは有給休暇をしっかりとりまくります(笑)。そのため休みがしょっちゅう出るので、シフト変更が日常茶飯事です。私自身も特にコロナ以降は、在宅勤務で各園をカメラで監視しながらフレキシブルに仕事をしており、Web会議なども多く取り入れています。
教育に関しては、保護者の方には、子どもたちが小さいうちから異文化に触れることの重要性について特に強く訴えています。日本社会では何でも同じがいいという風潮がありますが、小さい頃から異文化に触れていると、何でも違うことが当たり前として受入れ、相手を尊重することができ、「そんな考え方もあるのか」という心の柔軟性を持つことができます。
■今後については。
経営の成功の指標の一つとして事業拡大があります。取引銀行からは、数を増やさないのかといつも聞かれます。しかし私自身は成功したいというより、幸せでありたい、という想いの方が強く、あまり経営者として自分は素質がないと思っています。年齢的にも体力的にもきついものもありますし(笑)。また質の高い人材(保育士)を集め・育てるのは本当に大変です。守りに入っているといえばそうかもわかりません。
ただ、一時期は社会情勢の流れの中で待機児童が多数いたため、事業を拡大することも考えたこともありますが、現在は少子化が急速に進んでいますので、今事業拡大するのは賢明ではないと考えています。今ある3つのそれぞれの特徴ある保育園の定員を埋める子どもたちをしっかり集めて、私たちにしかない素晴らしい環境と異文化教育の理念に忠実な社会貢献をしていきたいと考えています。
あとはキッズブライトの理念に賛同する職員のために、給与・福利厚生もできる限り保証し、気持ちよく、楽しく仕事してもらう環境をこれまで以上に整えたいと考えています。そしてスタッフ一人一人が経験とスキルを積み、志を高く持ち、思いやりと責任感が強い企業集団へと成長していくために、これからも時代のリーダーとして頑張っていきたいと思います。
■このホームページを見ている人へのメッセージをお願いします。
乳幼児期や小学生のお子さん、またはお孫さんがいらっしゃれば、ぜひ気軽に見学に来てください。インスタでも動画配信を日々行っています。異文化の環境が、子どもの将来に幅広い選択肢を提供し、人生に大きく豊かな影響を及ぼすと信じています。日本に住みながら、日常的に異文化を体験して、柔軟な心と思いやりの精神で、世界のどこにいても、誰とでも友好関係を築ける大らかな人間になってほしいと心から願っています。そんな土台を、ここキッズブライトでどんな風に築こうとしているのか、ぜひ実感していただければと思います。
Who am I
一般社団法人G.I.E.C. 代表理事
三井孝子(洪孝子)
1984年
The Masters School, NewYork 米国留学
1986年
マリスト国際学校 卒業
1992年
甲南女子大学文学部英文学科 卒業
2007年
甲南女子大学大学院人文科学総合研究科心理・教育学専攻人間科学
博士前期課程修了 修士論文「日本における幼児期バイリンガル教育」
2002年
G.I.E.C. (Grassroots International Exchange Circle)設立
代表に就任、認可外保育園 舞子インターナショナル・プリスクール開園
設立代表者・園長として経営と教育に携わる
2002年
兵庫県コミュニティービジネス離陸応援事業としてG.I.E.C.が認定される
2003年
第1回 神戸ソーシャルベンチャーアワード優秀賞受賞
「英語での保育・教育活動を軸にした地域の国際化事業」
2003年
震災10年 神戸からの発信推進委員会委員
2004年
PCPI(Parent Cooperative Preschools International)日本代表
2005年
神戸からの発信事業「神戸キッズスポーツフェスティバル」
~25カ国の子どもたちを集めた国際運動会~
神戸市からの補助金で主催、他事業者との共催
その他、市民活動の補助金事業として国内外から著名人を講師に招いて講演主催
2005年
NAEYC(National Association for the Education of Young Children)会員参加
PECERA(Pacific Early Childhood Education Research Association)学会発表
2006年
神戸市政策提言会議委員、神戸からの発信ネットワーク委員
2007年
母校マリスト国際学校 PTA副会長
2009年
甲南大学EBA(Economics & Business Administration)総合コース講座
「ソーシャル・エントプレナー」(社会的企業家)講師
2010年
認可外保育園 塩屋キッズブライ ト・インターナショナル・プリスクール開園
園長として経営と教育に携わる
2014年
一般社団法人G.I.E.C.を設立 代表理事に就任
2015年
神戸市認可 小規模保育園キッズブライト・ナーサリー開園 園長兼任
2018年
内閣府所管 企業主導型保育園ジェームス山・キッズブライト・プリスクール開園
園長として経営と教育に携わり、現在に至る
KIDSBRIGHT公式HP:http://www.kidsbright.jp